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1-3:鹿児島、桜島。


佐多岬の手前で昼飯を食べ、海岸線にでるとでっかい山が見えた。おお!桜島かー、と思ったら方角的におかしいことに気が付いた。そうかあれは開聞岳だけか。開聞岳を眺めながら海沿いを快走。うーん、気持ちいい。
青い海、輝く太陽、誰もいない道。最高だ。サイコーなまま走り続けると展望台の看板出現。
ちょっと標高も高くて涼しそうだから寄ってみるか。展望台に向けてUターン。
近代的な看板が指し示す道は、最初は広くて綺麗な道だったのに、次第に杉の落ち葉だらけの道になる。あー、まったこんな道かよー、と思いながら登ること15分。なんとか展望台に到着。もっと観光地然としている所を予想していたけれど、単なる山の上の公園だった。広い駐車場には軽バンが一台。

ふーん。カメラを持って公園の中心に向かって歩き出す。すると展望台の方から話し声が聞こえてきた。あの軽バンの人たちか。公園の外周を回るように写真を撮りながら歩く。
その展望台は写真を撮るには絶好の場所で避けて通るわけにいかないので、こんにちわーと挨拶をしながら足を踏み入れる。こんにちわーとにこやかなおっちゃんの傍らに、ごろごろと横たわるおばちゃん3体。まるで自宅の居間で昼下がりの昼寝をしているかの様なその光景にちょっと驚いた。
板張りの屋根つきの風通しの良い見晴台。誰もいない夕方にここに辿り着いたなら、迷わずテントを張るロケーション。軽トラなら20分は掛かるだろう道のりを、わざわざ登ってきてゴロンと横たわるだけの価値はある。
あら恥ずかしいとばかりに微かにハニカミながら向こう側に顔を向けるおばちゃんに、愛着を感じてわざと絶景な景色の方へ視線を送る。
ぐるっと展望台をまわり下界の景色を堪能すると、唯一、椅子に座っているおっちゃんに、あんたハーレムみたいじゃねーかよ、という男同士にしか通じない目配せを送る。目だけでニヤリとするおっちゃんにバイバイと手を振って公園を後にする。
この展望台のある山は、反対側に下りられると思ったけれど、地図を見ても良く分からない。それくらいマイナーな道だったので今来た道を引き返すことにした。名もない険道を延々と下ると海沿いの国道に戻った。国道のT字路を右折すると旅に戻った気がした。
国道を暫く走るとT字路ともY字路ともつかない交差点。左折信号だけがずっと青になっているその交差点で、あえて右折レーンに入る。この海沿いの国道はもう何度も走っているから別ルートへ行ってみたかったのだ。
長い赤信号が青になったのでクラッチを繋ぐと、逸れた脇道は思いのほか細かった。そのまま進むと真正面に真っ赤な鳥居。吸い寄せられるように進むと何故か左右に二つ並んでいる。なんだこれー。

仲良く二つ並んだ鳥居。近くまで行ってはみたものの、どうして良いのか分からずに、くぐる事を断念して引き返す。ふたつも鳥居があったらどちらから入ればいいのか分からないよ。
鳥居の前、道路を挟んで反対側に停めたバイクに戻り地図を広げてさてどうしようと思いを巡らす。と、地図に今目の前にある神社の解説が載っているじゃないか。左から入って右から出るんだそうだ。でもまあいいや、もう戻ってきちゃったし。
地図を見ていると長い直線道路を見つけた。このやたらとまっすぐな道へ行ってみよう。
畑と田んぼに囲まれた田舎道をすすむと、その直線道路に差し掛かる。と、同時に道は大渋滞。想像していたのとはまったく違う。太い道路が何重にも交差しているためか、長い信号待ちが発生して渋滞を生み出している。道路脇にはマックスバリューとかファミレスとかレンタルDVD店が並ぶ。
スパッとパスしたい所だが、悪いことに目の前に警察車両。路肩は通れるほど広くないし中央車線は黄色いラインなので、仕方なく渋滞の車列に大人しく収まる。
20分程嵌まっただろうか。エンジンが音を上げそうになった頃、車列が進み始めた。いくつもの交差点を通り過ぎるとクルマが減ってもとの田舎道に戻った。おお、確かにまっすぐな道だ。

でもいくら真っすぐな道でも、前に車がいると遠くまで見通せないんだよね。ちょうど良さそうな所で路肩にバイクを停める。前を走る車が果てまでいって見えなくなったら写真を撮ろう。そう思いながらこれからの道のりを確認するために地図を広げる。
バイクを停めたところから30メートルほど手前に小さな交差点があった。止まれ標識で一時停止をした軽トラが時々この道を渡っていく。直線道路は長すぎて、目の前を走っていた車はまだ遠くの方に見えている。
撮影のタイミングまでまだ時間が掛かりそうなので、地図に夢中になっていると、視界の隅に不自然なクルマが見えた。
脇道から出てきた軽トラが、この道を渡りきったところでストップしている。この道を横に塞ぎながらバックを始めた。バックをして反対車線を塞ぐとハンドルを切ってこの道に入ってきた。道を間違えたのだろうか?いや、道なんて間違えるわけがない。どうみたってローカルな軽トラだ。単に気が変わっただけだろう。
そんな感じで軽トラはこちらへ向かってきて、路肩に佇む僕の前に止まった。あ、オレか。
またしても助手席の窓を下ろした軽トラが目の前に停まる。地図を見ている私に「何処行きたいの?」と声を掛けてくる。道端で地図を開いていれば当然だ。面白そうな県道を探していますとも答えるわけにもいかないので、「鹿児島」と答える。フェリーに乗らずに鹿児島市まで行きたいんだよね。
「ちょっと待ってな」そう言うと路肩に軽トラを適当に乗り捨てて、おっちゃんがこちらへ歩いてきた。
山道がいいんか?海沿いがいいんか?桜島は見なくていいんか?この辺の道なら任せろと言わんばかりだ。海沿いは前に走っているから山道走って行きたいんだよね、山の方が涼しいし。すると山中を走る国道ルートを丁寧に教えてくれた。多分同じ説明を3回くらいしてくれた。
どっからきたのか?と聞きながらナンバーを見に後ろへ回る。オレもこうゆうの乗りたかったんだけどな、なかなかうまい事いかんでな。そうゆうおっちゃんの顔はなんだか楽しそうだ。4回目のルート説明が始まりそうだったので、地図をさりげなくサドルバッグに仕舞いながらシートを跨ぐ。
今日は何処へ泊まるんか?えーと、なんだっけな。予約は入れてあるけれど宿の名前が出てこない。市内に入ったら予約確認のメールを見ればいいやと思っていたからおおよその場所しか憶えていない。するとおっちゃんは矢継ぎ早に鹿児島市内のホテル名を列挙し始める。あ、それそれ、なんとか別荘。
「それはな、10号線を真っすぐいって…。」4度目の説明どころか、宿の行き方まで教えてもらった。
ほんと、ありがとう。楽しかったよ、またね、バイバイ。
こうやっていつもおっちゃんに捕まるのだ。
派手なバイクを道端に停めて地図を見ながら佇むオトコ。これは多分おっちゃんホイホイなのだろう。
明日から何かに困ったらこの手を使ってみようか。
宿が見つからなかったら人気のない道にバイクを止めて地図を見ながら佇めばいい。
またきっと親切なおちゃんがやってくる。バックギアを使ってまで。

噴煙をあげる桜島を見ながら鹿児島湾をぐるり。国道を走るとさすがに所々渋滞している。
バイクの利点は渋滞に並ばなくても良いところ。路肩やセンターライン上を走りながら、うんざりとしたお父さんが延々と並ぶ車列をパスして進む。渋滞を抜けた後も前後をたくさんのクルマに挟まれて走る。一日を通して他のクルマが視界に入ることなんてほとんどなかったのに。もう街が近いのだ。
順光に照らされた桜島を見ながら走ると、向こうの方にコンクリートの都会が見えてきた。あれが鹿児島。今日のゴールだ。
真っすぐな道で出会ったおっちゃんの説明通りに道を進むと、簡単に今日の宿をみつけることができた。ありがとうおっちゃん。
宿の入り口の目立つ場所にバイクを置かせてもらい、一泊分の荷物だけ持ってチェックイン。
部屋に入るなり汗をかいた服を脱ぎ捨てて、温泉に向かう。この宿は良さそうな温泉があったのでここにしたのだった。
天然掛け流しの温泉に浸かりながら、明日はどうしようとぼんやり考える。そうぼんやりと。
明日がどうなるかは分からないけど、なんだか楽しい。
人生、楽しんだもの勝ちである。

 

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