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6-1:長崎-宮崎

今年の夏休み。
本当は五島列島に渡ろうと目論んでいたけれど、ずっと雨予報だったので長崎に留まった。
白い砂浜でギャルと戯れることは出来なかったけど、精霊流しとちゃんぽんを堪能できた。行きあたりバッタリの旅にしては上出来だ。
しかし、そろそろ先へ進まなくてはなるまい。
三日前にもらった朝食券を使ってホテルの朝食。
そういえば今回の長崎で、初めてちゃんぽん以外のものを食べた。

外は雨。
食事をしながらiPhoneで天気予報を確認すると九州は全域雨。昨夜、晴れ予報になっていた宮崎も、曇り時々晴れに下方修正されていた。
雨雲レーダーをみると、九州南部に東西に長く雨雲が横たわっている。
ホテルをチェックアウトして久しぶりのバイクをパーキングから引きずり出す。見上げると空は少し明るい。
路上のミニバイクは当たり前のように合羽を着ているが、雨はやんでいる。
どこかで降られたら着ればいいや。そう思い直してカッパを着るのをやめた。
朝の長崎市街。
交差点の赤信号で、バイクは車列の先頭の二輪用停止線に集まる。
みんなカッパを着ているのに自分だけ普通の服で浮いている。ミニバイクの兄ちゃんから「あ?」という視線を感じたので右手でブレーキレバーを握り直して空を見上げる。ほら、ちょっと薄日が差してきているじゃねーか。
ミニバイクに視線を戻すと一緒に空を見上げていた。
そして青信号。最後に再び一瞬目が合った兄ちゃんは、少し納得の表情で違う方向へ去っていく。
自動車専用道路に入ると路面は濡れているがさっきの薄日はそのままそこに居る。高速の料金所が近づいてくると次第に路面は乾き始める。そして行く手を塞ぐ雨雲が、左右に退く。
そうだった。九州で雨に降られることなどあるはずがないのだった。
九州は全域で雨。括弧、オレが行く道を除く。だ。
結局そのまま島原のフェリー乗り場まで辿り着いてしまった。降られなかったどころか、これは明らかに晴れですよね?という天気になった。
フェリー乗り場ではカブのおっちゃんと一緒になった。フェリーに乗り込むバイクは私とおっちゃんの二台だけ。
「これは何シーシーなんか?1500?おへー!すごかねー。」
ずっとニコニコしているおっちゃん。なんだか楽しそうだ。
ほどなくフェリーが出航。甲板後部から島原半島を望む。
自分が走ってきた道の空だけが明るい。そしてこれから行く手も晴れている。もう雨に降られる気なんてしねぇ。
と云いつつも、雨雲レーダーを確認してみると赤いドットのかたまりが熊本を横切っている。この張られた罠に掛からずに先に進むのは難しそうだ。
ちょっと観念しながらも、数十分のフェリーの旅を楽しむ。やはり海の上で風に吹かれながら青い空を見上げるのは気持ちいい。
そして着岸。
カブのおっちゃんに軽く手を振って走りだす。熊本はまだしっかりと晴れている。

迷わず国道を跨ぎ越え、ローカルなワインディングロードへ入る。
快適な道を走りながらこれからのルートを考える。宮崎までの道のりは結構長い。
せっかくここまで来たんだし、昼飯は熊本ラーメンでも食べようか。
ずっと県道を辿るルートはやめにして、熊本市街に向かう道に進路を変えた。
標識通りに進み、市街地に近づくと、次第に増えるクルマ。久しぶりに幹線道路を走ると、今がお盆休みだということを思い知らされる。
まだ市の中心部まで10キロ以上離れているというのに、国道の車列は動かなくなってしまった。熊本でラーメンを食べようなんて思いついた自分を少し恨む。
東京仕込みのすり抜けで渋滞をパスしながら走るが、それでもやはり途中でクルマに挟まれて身動きが取れなくなり、原付の後塵を浴びる。
見渡す限りの渋滞に嫌気して、手近な信号から脇道に逸れると束の間の快走路。そしてまた渋滞に戻される。
でもあと少しで熊本ラーメンだ。いつか食べたあの味を思い出しながら、炎天下の道を必死に進む。
やっとの思いで渋滞を抜け、お目当てのラーメン店に近づいた。
一度走った道なら行けば分かる。確かこの辺だろうという所まで行くと駐車場の看板が出迎えてくれた。店はもうすぐか、と思った瞬間。長い長い行列が見えて、僕を絶望へと突き落とす。なんだこの行列。まるで連休みたいじゃないか。
そうか今はその連休か。
ずっと静かに山奥で暮らしていたのに、人だらけの里へ出てきちゃった熊みたいな気持ちになった。
これじゃ無理だ。観光客に付き合ってはいられない。後ろ髪を引かれながらその場所を後にする。
「ハラ減ったなぁ。」
近所に旨いラーメン店はないだろうか。たしかもう一軒近くにあったはず。
少し道に迷いながらもその店を探し出すとテナント募集の看板。はあ、潰れてしまったのか。ついてない。
暑さにやられてきたのでとにかく走り出す。風を受けていなければヒートしてしまう。バイクも俺も。
もう街はイヤだ。
早く市街地を抜け出したい一心で高速へ乗る。
道は濡れているが空は晴れている。対抗車線のバイクはみな合羽を着ている。
最初のサービスエリアに滑り込み、バイクを停める。隣に並んだバイクには、タンクの上に濡れたカッパが干してある。
シャバシャバと雨水を跳ね上げながら走るクルマを強い日差しが照らしている。雪解けの、晴れたスキー場の駐車場にいるような錯覚に陥る。
減った腹に熊本ラーメンと名のついた食べものを流し込み、真っ赤なタンクにもガソリンを注ぎ込む。
よし、やっぱり高速はつまらないから次のインターで降りよう。
高速を降りて濡れた山道を走る。前の車が雨水を跳ね上げる。それをよける様に離れて走る。
対向車が来たら頭から水を被りそうな巨大な水たまりが所々にある。対向車との距離を計りながら慎重に進む。
いつ降られてもおかしくない状況なのに、フロントタイヤが指し示す方向だけが晴れている。まるでモーゼの十戒だ。九州ではいつもそう。何かが確実に味方している。
道が分からなくなってきたので路肩にバイクをとめてこれからの走るルートを考える。
もう多分降られない。高速沿いの道を走るのはやめにして横谷越えというルートを進むことにする。行く手には黒い雲が広がっているが、一箇所だけ雲が切れて薄っすらと青空が見えている。たぶんあそこがオレの走る道だ。
覚悟を決めて高速沿いの道から逸れて走り出す。この道は山越えルート。進み始めたらもう戻れない。
雨に濡れるくらい構わないけど、雨の山道は走りたくない。
九州横断。行く手は高い山が塞いでいる。
あの山を超えていくのだ。薄日が射しているのは一箇所だけ。
自分の走る道が右へ左へと向きを変える度にその突破口は正面から左右にぶれる。ちょっとでもズレたら雨に降られる事は確実だ。
この状況で雨に降られずに宮崎まで辿り着けたら、もう疑いを持つことはやめよう。自分には九州の森羅万象が味方している。もう決して雨に降られることなんてない。いままでもそうだったじゃないか。あれは偶然なんかじゃないんだ。

数十キロは先にあると思っていた山々が次第に近づいて来た。徐々に標高が、緩やかに上がる。そして薄日の射す、あの突破口がギリギリになって真正面にやってきた!
180度の視界の先には、真っ黒な雨雲が行く手を塞ぐ。薄日が射しているのはその中の5度角。極めて細いその隙間に、自分の前足たる前輪を差し込んでいく快感。
ぐんぐんと上がる標高。少し肌寒い涼しさ。そして路面はドライ。アクセルを開いて誰もいない山道を突き進む。


ルートマップ

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