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サンセット

この自転車は、毎日この場所へやってくる 「おじい」 のマシン。
今の時期だと午後5時前にやってきて、夜9時頃までは釣りをしている。
僕の知る限りでは大晦日も来ていたし、お正月も来ていた。(ベランダから見えるから知っている)

僕はこの場所で 「釣り」 というものを始めた。
最初の一週間で僕はおよそ10匹の太刀魚を釣り上げたが、そのあいだ  「おじい」 がサカナを釣り上げることはなかった。

僕はもっぱらルアー専門。 「おじい」 はサンマの餌つり専門。
僕がルアーで10投しているあいだに 「おじい」 は1投くらいしかしていない。
何故なら 「おじい」 はいつも餌のサンマと格闘しているからだ。

僕は潮汐表を見ながら潮の良さそうな日の夕マズメに30分だけ釣りをする。
釣りが趣味なのではなく、晩飯のおかずに新鮮な太刀魚を調達するのが目的だから効率を重視する。
「おじい」 はとにかく毎日やってきてはニコニコしながら釣りをしている。
たぶん釣れても釣れなくても楽しいのだろう。

しかし、データと統計を基にして確実に獲物を得ていた僕にも ついに釣れない日がやってきた。
いままで釣れない日はなかったので少しうろたえた。今日の晩飯どうしよう、と。
すると僕のとなりで 「おじい」 は巨大な太刀魚を釣り上げた。
「なーんだ、太刀魚いるんじゃん」
少しホッとして僕はルアーを投げ続けた。しかしまったくアタリがない。気付けばいつもの30分は既に経過していた。
効率を求めるなら今日は諦めて帰るべきなのに、僕は 「延長」 を決意する。そしてルアーを投げながら思う。
「これはパチンコ台の前でする、悪あがきとそっくりじゃないか」
すると隣の 「おじい」 は更に二匹目の太刀魚を釣り上げた。しかもまたデカい。

結局僕は一時間以上ルアーを投げ続け、一匹も釣れないばかりか一度のアタリも無いままにその場所を後にした。
高校生の時以来、僕はパチンコなんてしなくなっていたけれど、なんだか堕落した様な気分になっていた。

「ルアーでダメな日は、エサで釣れるさぁ」

帰り際に挨拶をすると 「おじい」 はそう言って微笑んだ。 (暗くて顔は見えなかったけれど…)

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