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久しぶりの長文。真夏の三瀬ツーリング

台風が接近してきた。沖縄にいた私はANAのページにアクセスして福岡に戻る便を予約しようとする。しかしマイルを使った特典予約は、最短で翌日の便しか取れないらしい。仕方なく翌日の便を予約して荷造りを始める。

冬の間だけ沖縄生活。というのをずっとやっていたのだが、去年からダイビングにハマってしまって、ここしばらくは「一年中沖縄生活」。になってしまっていた。時々マンションの管理人から「ポストが溢れている」とクレームの電話が掛かってくるし、たまには福岡にも戻らなくては、といつも思っていたので、台風が来たタイミングで帰ろうというのは自然な流れだと言えるだろう。

前回このバイクに乗ったとき、何故かシートが外れなくなってしまって、バッテリーに充電器を繋ぐことが出来なかった。あれから2カ月ちょっと経ったのだけど、エンジンは掛かるだろうか。微妙な間隔だよな、と思いながらスターターボタンに手を掛けると「キュルキュ…」と言ったきり沈黙してしまった。すぐさま調べておいた充電器をアマゾンでポチると翌日に充電器は届いた。

長浜で酒を飲んだ翌日、うちに泊まった友人と一緒にランチへ行く。歩きながら「今日はバイクに乗るんですか?」と聞かれて「乗らないかな?」と答えた。「カブならビーサンに短パンで乗れるからいいけど、ビーエムに乗るにはジーパン履かなきゃじゃん?」と付け加えると、その答えに爆笑されて「えー、バイクに乗るから帰ってきたんじゃないんですか?」と戒められる。まあそうだよなぁ。シーソーシフトのハーレーならビーサンでも乗れないことはないが、BMWはシフトアップが必要になるからやはりブーツは必須だ。だとすればやはりジーンズを履かなくてはなるまい。

ランチを済ませて友人を駅まで見送ると、やることがなくなった。そして、「バイクに乗らなきゃ」と思う。「バイクに乗りたい」ではないところが残念ではあるが、とにかく暑いのだから仕方ない。だが、大きな黒い馬を飼っておいて、それを走らせないというのは飼主としては失格だろう。ならば責任としてこれを走らせる義務がある。そんなことを思いながら自宅に戻ると、去年何度か履いたきりのジーンズに脚を通し、久しぶりのソックスを履き、重いウエスコブーツに足を差し入れた。

ハンドシフトのスーパーカブを駆ってガレージへ行くと、巨大な黒い馬を引っ張り出す。スマートフォンをハンドルにセットしてエンジンを掛けると「ブロロロロ」と安定した図太いアイドリング音が辺りに響く。サドルバッグの形をしたバッグをサドルバッグの中に突っ込むと、ヘルメットを被ってガレージのシャッターを閉める。太いシートに跨ると、左足を伸ばして車体を起こす。ギアを一速に下げ入れ、クラッチを繋ぐと、1600㏄の直列六気筒の心臓を持つK1600Bは、まるでナナハンの様な軽さでスルスルと進みだす。

時刻は午後2時。暑い盛りに出てきてしまった。ブーツの中でソックスが蒸れているし、ジーンズの中のお尻は汗をかいている。「やっぱり引き返そうか」。そんなことを10回くらい考えていると都市高速の入口が現れた。百道(ももち)から西向きのETCゲートに入ると、ペイペイドームを左手に見ながらアクセルを開ける。このバイクにはオートシフターが付いていて、止まるとき以外はクラッチレバーを握る必要がない。つま先でシフトギアをカチリカチリと掻き上げるだけでどこまでも加速していく。少し低めのギアで引っ張って回転数を上げてやる。たまには回してやらないと、このバイクは機嫌を損なうらしい。確かに4速で100キロ巡行とかをしてやると、悦んでいるのだろうか、その快音に飽きることはない。

さて、目指すは三瀬七山方面。日帰りショートツーリングの行先はいつだって同じ三瀬七山方面。目的地はいつも同じだが、アプローチには幾通りかのバリエーションがある。細い小道をクネクネ登るか、ゴルフ場に向かう綺麗な舗装路を使うかなど。今日は久しぶりのバイクなので、まずはクネクネした道を走ってカラダをほぐそう。いつもよりクルマが多いことを感じつつ登坂していくと、ある地点からクルマが列を成しているのが見えた。その列が何処に続いているのかは容易に想像がついたが、まさかここまで伸びているとは思わなかった。今日は四連休の二日目。まったく車列が動いていない様を見ると、なんとかスペースを見つけてUターンをし、すぐさま来た道を引き返す。

この先には白糸の滝という夏の涼し気ポイントがあるのだが、知らずに向かってしまうと脇道の一切ない山道を、満車になった駐車場に向かう動かない渋滞にハマって延々と無駄に時間を過ごすという、地獄の様な休日を過ごす羽目になる。というか実際になったことがある。あれを一度体験した人は、二度とあんな場所へは行かないと誓うのだから、いまその列に加わろうとしている人たちは、言うまでもなく一見客だ。

違うコースを使って山を登る。カーブに差し掛かると感じるハンドルの反力に、あれ、バイクってどうやって乗るんだっけ?と少し戸惑う。ちょっとペースが遅いからかな?まあこの道はあまり好きな道じゃないし。そしていつもの誰もいないワインディングロードに辿り着くと、多めにアクセルを開けてみる。走り慣れた道だからだろうか、こわばっていた腕から力が抜けて、ハイスピードのまま綺麗にコーナーをクリアしていく。なんだ、カラダが憶えているじゃないか。腕を真っすぐに伸ばしたまま車体を傾けて走るハイスピードコーナー。カラダを動かしながらリーンアウトで走るタイトコーナー。いろんな道を走りながら徐々にスピードが上がってくる。青空は薄曇りに変わり、涼しくなってくる。湿った匂いを感じると、心配になって空を見上げた。だがゲリラ豪雨をもたらしそうな暗い雲は見えない。念のため雨雲レーダーを開いてみると「しばらく雨は降りません」の表示。安心して少し距離のありそうなルートを選んで山道を駆けまわる。

もう既に地図なんて見なくても走れる三瀬七山エリア。メッシュ状になった快走路を繋げばいつまででも走り続けられる。まだ走り足りない気分になりながら、まだ十分に時間があるという満足感に浸る。いつもの様にノンストップで数時間のトリップを楽しむと、少しの疲労感を感じてペースを落とす。すっかりと涼しくなった夕方の山奥にはヒグラシの鳴く声がずっと聞こえている。左手にどこまでも続く田園地帯を眺めながら、林沿いに長く伸びる見通しの良い道を疾走する。いつかの夏に出た旅で見た景色を思い出すと、いま、あの時と同じ匂いがしていることに気付く。もう少し走ったら山を降りよう。そして夕焼けに染まる海を眺めながら、涼しくなった市街地を目指して帰ろう。やはりバイクは夏の乗り物。「走りに来て良かった」と、思いながら帰路についた。

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