突発性難聴になりました。難聴と言うと「聞こえづらい」だけだと思われそうですが、片耳がまったく聞こえなくなりました。実際の数値は100db。要するに耳元でジェット機が飛んでも聞こえない聴力です。
音は鼓膜が重要なのだと思っていたし、鼓膜がダメでも骨伝導があるじゃないかと思っていましたが、突発性難聴は音を受け取る鼓膜の振動を、脳に伝えるための電気信号に変換する部分がダメージを受けるので、鼓膜どころか骨伝導も機能しなくなることを知りました。耳元を触ってもカサカサしない。綿棒を耳に入れても全く何も感じません。
それに加えて「気配」が感知できなくなりました。聞こえなくなった右側からは、何かが近寄ってきてもまったく分かりません。「気配」って音や振動に由来していたんですね。クルマに乗っていても右側の感覚が完全に喪失していて、100パーセント目視に頼る必要があります。
実際には聴力は「半分以下」になります。両耳が使えているときは、聞こえる範囲を相互の耳が補完して 360度になっていますが、片耳になってしまうと単一の耳の鼓膜から直接到達できる範囲の音しか聞こえません。耳の穴から見て、おおよそ 30~60度くらいの範囲。相対的に言うと、聴力がいままでの 30パーセントに落ち込んだ感じです。だから顔を右に向けないと前からの音が聞こえない。正面の人と会話するには、志村けんみたいに「あんだって?」と言いながら耳を前方に向ける必要性に迫られました。
飲み会の席では一番右に陣取りますが、店内がうるさいと会話なんて聞こえません。誰かと誰かの会話を流して聞きながら、隣の人と会話するなんていう普通のことがまったくできなくなります。静かな部屋で二人きりで話し合うのが精いっぱいです。
片耳喪失しただけでこれだけ不便なのに、これが両耳に発展したら完全な聾です。五感の一つが失われるとか、これほどの恐怖はなかなかありませんが、突発性難聴は片耳しかならないと分かって一安心。そして早期に治療を開始すれば 2/3の確率で聞こえるようになるそうです。但し、残りの1/3は治らない。6割治ると喜ぶか、3割ダメだと悲観するか。これってほとんどギャンブルじゃん。
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まずは自身の病状の経過を記しておきます。
7月23日
昼間、耳に違和感を感じる。両耳に水が入っている感じ。前日のダイビングの影響だろうか?
7月24日
翌朝、少し喉が痛い。エアコンの温度調整を誤ったか、風邪の初期症状。痛みは昼には治る。耳は左側は抜けたが、右側がまだ抜けない感じ。来週ダイビングで潜れないと困る。耳が抜けやすくなるクスリと言うのがあるらしいので、月曜日にもらいに行こう。夜、風邪薬を一錠だけ飲んで寝る。
7月25日
福岡市内の耳鼻科を受診。受付で名前を書いている辺りから右耳が聞こえなくなってくる。診察室に通されて、「耳管が塞がっているので抜けやすくなるクスリが欲しい」旨を告げる。耳と鼓膜は問題なし。鼻腔は曲がっていて耳抜きしにくい体質らしい。そしてまずは聴力検査。
遮音室に入れられてヘッドホンを掛けてボタンを握る。音量を調整するダイヤルを回す手がガラス越しに見える。右耳の聴力が殆どないことが見て取れる。昨日よりも、今朝よりも、聞こえなくなってきている。
診察室に戻されると、「突発性難聴」だと告げられる。週末のダイビングなんてもってのほか。緊急入院が必要な状況であると告げられる。事の重大性に気が付いていない私は、入院を断って、投薬治療を選択する。この日からステロイド60g。
7月26日
夕方からイカメタルで出船。ステロイド投薬中なので、酔い止めを併用してはイケナイ気がしてそのまま船に乗る。荒れてはいなかったが、やはり数時間後には船酔い。一時間ほどキャビンで睡眠。エンジン音が煩かったのは、今にして思えば耳にかなり良くなかったと思う。
7月27日
昨夜少し冷えたせいか、朝起きると喉が詰まった感じ。熱もないし、まあ多分大丈夫。午後から耳鼻科へ。聴力検査をすると 前回の 60db から 100db 前後まで聴力が落ちていた。やはり船の爆音が良くなかったのだろう。入院を強く勧められて「一応話だけでも聞きに行ってみたい」と告げると、先生が電話をしてくれた。しかし、「病床が空いていないし、どうせ投薬しかすることがない」と言って入院は断られた。来週までの薬を貰ってここでの治療は終了。
やはりカラダが疲れているのを感じて外食は断念。夕飯は Uber Eats にした。
7月28日
突発性難聴について自分なりに調べてみた。初期症状が重い場合には予後が好くない。治療開始が早ければ、予後は良い。故障しているのは音感センサーであって、鼓膜回りなどの気圧が関係して部分ではない。まあ潜っても悪影響が出ることもないだろうと判断して、予定通りダイビングへ。耳が抜けなかったらどうしようかと思っていたけれど、特に問題なかった。体調も聴力も変化なし。
この日から耳自体を安静にすることに意味がありそうな気がして、右耳に耳栓をする。
7月29日
海況もあまり良くなかったので、この日はダイビングをキャンセルして鍼灸治療へ行く。夜は打ち上げで飲むことになったが、やはり酒が入ると聞こえづらくなる。耳栓をしないと耳鳴りが凄い。耳栓バンザイ。
7月30日
福岡から沖縄へ移動。特に状況に変化なし。
冷凍庫が開かなくなっていたので、氷が取り出せない。普通なら新しい冷蔵庫を買ってくるところだが、今日から冷たいものを控えることにした。
7月31日
久しぶりに自宅でゆっくり。特に状況に変化なし。そして今日から禁酒してみる。
8月1日
紹介状を持って、沖縄の耳鼻科へ行く。通常、早期治療着手での回復率は 60パーセントと言われているが、この医院のホームページには80パーセントと記載されていた。そして先生は博士。聴力検査をすると、低音側の聴力が少しだけ戻っていたが、「低音側は治りやすいんだよね」と、その結果は一蹴されて、即座にステロイド点滴が始まった。今日から毎日だそうなので、少しは期待が持てそうか。
午後になると「院内のスタッフからコロナ感染者が出たので、明日から15日まで閉院します」と連絡が来た。転院先を紹介されてここでの治療は終了。
午後は鍼灸院へ。とても丁寧な触診。約45分のあいだで、6本しか針を打たれていないが、果たして効果はあるのだろうか。
夜は10時頃に就寝。良く寝付けなかったが、熟睡は出来たっぽい。
8月2日
6時前に目が覚める。耳を触るとガサガサ音が聞こえるようになっている。
午後から新しい耳鼻科へ。聴力検査をすると、昨日より倍くらい上に線がある。格段に改善している。そしてここでもステロイド点滴が受けられることになった。このまま大人しく帰って寝て、明日に期待。
8月3日
昨夜も10時就寝。6時前に起床。飲酒無し。耳栓を外すと普通に聞こえている気がする。もう7割くらい回復したんじゃないだろうか?今日は午前中に点滴で、昼から鍼灸。美味しいご飯を食べて帰宅して安静にしてたらさらに回復するだろう。
8月4日
昨日受けた点滴と針治療によって、長い睡眠をとることができた。おかげで聴力はほぼ回復したと思われる。最終的には明日の聴力検査次第で今後の投薬量が決められることになっている。
8月5日
最終の聴力テスト。8000ヘルツは60db程度しか聞こえない。ここはもう治らないでしょうと言われる。それ以外はほぼ100パーセント回復した。耳鳴りもほぼ解消。遅延して反響していた音もあまり気にならなくなっている。最後に点滴をして治療終了。念のため来週もう一度検査に行って本当に終わり。
耳鼻科が終わると鍼灸院へ。こちらもこれで施術は終了。また何かあったら来てくださいねだそうです。
8月6日
完治です。ありがとうございました。海に戻りました。
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最初の医師は、重症だ、大変だ、即入院だ、ダイビングなんてもってのほかと騒ぎ立てました。そこまで言うならと入院先で話だけ聞いてみたいというと、「病床が空いていないし、どうせできることは投薬だけだから」と、先方から断られる始末。そのままその医院で投薬を続けていたら、この回復は見込めなかったかもしれません。
たまたま移動するスケジュールだっただけですが、翌週からは沖縄の医院へ行くことになりました。ネットで探して訪れた耳鼻科でしたが、博士の先生によって治療方針がガラリと変えられました。「今日から毎日点滴をします。来れますか?」即座に点滴が始まり、翌日からもそれが続く。途端に聴力は回復して、数日後には普通に聞こえるようになってきました。
ステロイド以外の治療法がほぼ無く、2週間ほど経過して病状が固定してしまうと、もう何も施せないという恐ろしい病気。果たして我々に対抗すべき手段はあるのでしょうか。自身の調査と経験をもとに、思ったことを記しておきます。
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対策1、良い医師を急いで探す
投薬ではなく、点滴か鼓膜内注射をしてくれる医師を探して頼るべきです。しかも今すぐ。電話を掛けまくっても良いし、1日に何軒も耳鼻科をハシゴして探しても良い。コロナ禍だからと、(免疫力を抑制する)ステロイド治療に消極的な医師に捕まってしまっては、回復は望めません。たった 2週間しかない治療期間。どんなに高濃度のステロイドを投入したところで、及ぼす悪影響なんて大したことありません。自身の聴力が失われるのとどちらが良いかは明白でしょう。
対策2、安静にすること
人間の作ったクスリでは、人のカラダを治せない。すべての傷は、人の自然治癒力によってのみ治される。そのためのパワーをカラダに貯めこみ、後押しする。栄養を摂ってよく眠る。我々にできることはこれしかありません。
対策3、耳栓をする
傷を負った部分も安静にするのが道理。ならば耳を安静にしなくてはならない。人の声を通すタイプのものではなく、完全遮音タイプがおススメ。これをすると耳鳴りを抑え込むことができるし、耳に負担を掛けずに済む。リハビリは傷が完全に癒えてからでいいのです。
対策4、鍼治療
治癒能力による回復を目指すには、首周りが健康である必要がある。血行が悪くなっていたり、凝り固まっていれば、回復に悪影響を及ぼすのは明らか。この手の治療に疑心暗鬼でも構わないから、できることをしよう。タイムリミットは発症から2週間しかない。必ず、突発性難聴についての記述と実績がある鍼灸師に頼るべきです。
対策5、生活の見直し
自律神経の乱れが発症のきっかけになっている可能性があるのならば、自律神経を整えるのは有効。具体的には早寝早起き。自分の場合はかなり乱れたタイムスケジュールで生活していたので、これを切り替えた。理由は、カラダの回復が行われる最強の時間帯が、午後10時から午前2時ころまでと決まっているから。この時間に睡眠していなければ、効率の良い回復は見込めないのです。
対策6、禁酒
お酒は控えめに、治療開始時にそう言われたけれど、飲むと残った方の耳が絞り込まれて聞こえづらくなるのを感じました。そのまま両耳が聞こえなくなってしまったら、それこそ取り返しがつかないので、即座に断酒しました。これほど簡単にお酒をやめられるタイミングもそうあるものではないので、この機会を逃さず。もうこのまま禁酒してしまっても良いかもしれない。
突発性難聴にステロイドが有効と言うエビデンスはないそうです。だから本当にステロイドが効いているのかは分からない。自然に治癒しているだけなのかもしれない。鍼灸治療も同様にエビデンスはありません。自分の場合は完治に至ったけれど、ステロイドが効いたのか、鍼治療が効いたのか、その両方だったのか、または何もしなくても結果は同じだったのか、そんなことは分かりません。しかし、早期治療が完治への鍵であることは間違いないようです。で、あるならば、出来ることを全てやってみて結果を待つしかないのです。人事を尽くして天命を待つ。
ステロイド以外にも、高気圧酸素治療や、Rhoキナーゼ阻害剤などの情報も出てくるが、前者はチャンバーのある場所が限られているし、後者はほぼエビデンスがない状態なので、前述の項目を完全にやり尽くした後に検討してみてはいかがだろうか。
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自分の場合は耳が抜けづらいのは感覚があったのだけど、ダイビングがしたくて耳鼻科に耳抜きのクスリをもらいに行っただけでした。自己判断で耳管狭窄症だと思っていたのですが、ネットにはウイルスや風邪が原因で、それらが収まれば自然と治ると書いてありました。経験則で確かにそれは分かっていたから、ダイビングの予定が無かったら耳鼻科には行っていなかったと思う。実際、喉も痛かったし、放っておけば治るよねと真剣に思っていた訳です。ところが、耳鼻科で問診票書いてるときに突然音が聞こえなくなってきた。最初の聴力検査では60dbを叩き出した。これはもう悪運が強いとしか思えない。が、実はずっと守られていただけなのだということに気が付きました。何かが起きたときに守られるのではなく、最初から守られていた。ありがとう、ご先祖様たち。
耳が聞こえなくなったときに思ったのは、自分の命は一度取られた命というか、借り物の命なので、そろそろ返せと言われているのかなという事。まあいずれ必ずその日が来るわけだけど、実感として再認識できた出来事でした。病気で徐々になのか、事故で突然になのかは分からないけれど、誰でも必ず人生の終わりの瞬間を迎えます。半身不随になりかけてから、数えてみたら16年も経過していました。やりたいことはキチンとやり尽くした。ただ、また新しいやりたいことも出てきているので、この辺で一度考えを整理して、残りの人生をどうするか考えてみたいものです。
片目とか、片腕とか、片足取られるなら違う態度を取ったと思うけれど、片耳聞こえないなら鼓膜に穴開けて耳抜きなしで潜行スピード上がるなとか本気で思った。
罹患したら芸能人みたいだね、と冷やかされましたが、ミュージシャンの罹患者が多いのはライブとヘッドフォンのせいではないかとみています。彼らと自分の共通点は多分、バイクとヘッドフォンです。毎週ライブの大音量を浴び、日々モニターヘッドフォンをして仕事。自分も毎週バイクで大音量を浴び、日々モニターヘッドフォンを装着したまま自宅で仕事。耳で受け続けてきた大音量に原因がある様な気がしてなりません。いまもハーレーで爆音を浴びている方は、要注意です。