続、小豆島へ。

島の半周を終えた辺りから、目ぼしいスーパーがあったら買物を済ませておこうと思っていたけれど、目ぼしいスーパーどころか潰れそうなスーパーすら見つけることが出来なかった。見つけられないまま昼過ぎに降り立ったフェリー乗り場に近づいている。フェリーを降りてすぐ走り出してしまったから確認できていないけれど、フェリー乗り場の近くなら、スーパーくらい あるに違いない。

フェリー乗り場まで数キロの看板が現れるが相変わらずの田舎道が続く。暫く走りるとぽつりぽつりと民家が現れ始めたので少しスピードを落として慎重に走る。フェリー乗り場が近づいてきたようだ。「スーパー、スーパー。」しかし思いも虚しくスーパーを見つけられないまま今朝の出発地点であるフェリー乗り場のT字路に着いてしまった。ここから先にスーパーはないのは確認済みだ。仕方なく細い路地を左に曲がり「町」を探す。

これが町か?というう町並みをクラッチを切ったり繋いだりしてノロノロ進むと人影発見。いわゆる「第一町人発見!」である。スーパーの場所を聞いてみようとスピードを落として近づくと、道路の左側に商店らしき建物を発見。ぐるりと首を90度曲げながらスローで進み、ガラスの入り口越しに薄暗い店内を覗き込むと食料品が売っていそうなことが確認できたので第一町人に声を掛けるのは止めにして路肩にバイクを停める。

小さな島だし食べ物が買えればそれでいいやとは思っていたけれど、ぐるぐると狭い店内を歩き回っても晩飯のメニューをまったく思い浮かべることが出来なかった。その店には殺虫剤とパンと野菜とドリンクが売っていた。しかしミネラルウォーターは売っていない。ビールも氷も売っていない。「カップラーメンはじめました」という珍しい張り紙。田舎のじいちゃんばあちゃんはカップラーメンなんか食べないんだろうか。ソーセージもインスタントラーメンもレトルトカレーもない。気が付くと店の入り口のレジの後にさっき見かけた人影のオジサンが座っている。

「ビールはないですか?」オジサンと目が合ってとっさに口を付いて出た台詞。買い物をするであろう私の為にレジ脇に座っていてくれるオジサンは無表情どころか無愛想な感じだけど、心の中では私がレジの前にいくつかの商品を持ってくることを期待していたに違いない。そんなオジサンとうまく折り合いをつけて店を出るにはグッドなチョイスだ。「ろくなモノ、ねーじゃねーかよ」が最悪の台詞だとすれば、「ビールはないですか?」は多分100点である。オジサンは済まなそうな顔をして「スミマセン、ビールは置いてないんですよ、ちょっと先の茶色い壁の建物のお店が酒屋さんだからそこで買って下さい。」と親切に教えてくれた。少しの罪悪感を感じながら、「ありがとう。」と真剣にお礼をして店を出る。そしてオジサンが教えてくれた店を遠目に確認すると、土間に大きな冷蔵庫がひとつだけ置いてあって、白いワイヤーみたいなものでできた陳列棚に誰も買う人が現われずに少しホコリを被ってしまったおつまみが控えめに並んでいる姿を容易に想像できる店構えだった。

鳥居

グーグルマップ

あそこでビールを調達して、今の店に戻って食料品を買うことにしようか。そう決めあぐねているとコワモテでステテコ姿でビーサンのおっちゃん登場。こちらを見るや否や、お?なんだこいつは?と言いたげな顔になり、同時に歩行軌跡が微妙に膨らんで、なんとなく遠巻きになったが、その視線は明らかにこちらに向いている。これはチャンスとばかりにこちらから声を掛ける。「この辺にスーパーはここしかないですか?今日キャンプしようと思うんで、買出ししたいんですけど。」
なんとなく遠巻きだった軌跡はカクンと折れ、まっすぐにこちらへ向いた。
「うーん、この辺はここしかないねぇ。あとはとのしょまで行かないと。」「??。なにしょですか?」まったく聞き取れなかったので聞き直す。
「とのしょ。と・の・しょ。」聞いたことのない地名。それはどの辺ですか?とさらに訊ねる。
するとおっちゃん、左手を横にして手のひらをこちらに向け、「これが島な?」人差し指の辺りを指差して「いま、この辺だろ?とのしょっていうのはこの辺。島の真反対。」おっちゃんの指は手首の辺りを指していた。

分かった。「とのしょ」とは「土庄」のことだ。読めなかった。ほんじょかほんじょうだと思っていた。確かにあの辺はかなり大きな町だった。うわぁ、あそこまで行くのか。
「今日は何処でキャンプすんの?」「この先の島の北側の辺りです」走りながら目星を付けておいたのは島の北側のキャンプサイトを説明する。「あー、あの辺ならココからトノショまで行って戻ってくると一時間か、一時間半くらいかな?」所要時間まで教えてくれた。時間を確認するとまだ4時半。一時間半なら買物30分としても6時半にはキャンプサイトに到着できる。まだ十分明るいから大丈夫。

島はもう回ったのか?今来たところか?温泉ならあそこがいいぞとか、これはハーレーか?(偶然止まっていた国産バイクを指差して)あんなのオモチャにしか見えないだろ?とか5分ほど話をして「じゃあちょっと行ってみます。ありがとうございます。」バイクを起こしてズドン!とエンジンに火を入れて走り出す。「おう。」と言って首だけ回して見送ってくれた。ありがとう、おっちゃん。

知らない土地で何かを訊くならコワモテのおっちゃんに限る。これは一人旅で見つけた法則。
やさしそうなオジサンに話しかけても当たり障りのない やさしい情報しか得られない。オバちゃんに話しかけると必要な情報より余計な情報の方が多くなる。だけに留まらず、根掘り葉掘り質問攻めにされる。田舎のじいちゃんに話しかけると話の半分は言葉が理解できない。ばあちゃんは「良く分からないねぇ。」といって漬物を出してくる。本当は若い女の子に聞けばいいんだけど、そもそも自分が目指す田舎の道端に女の子なんていない。
土方風情のコワモテのおっちゃん(にーちゃんでも可)は、その土地の事なら大抵なんでも知っている。多分、縄張りなんだろう。そしてコワモテのおっちゃん(にーちゃんでも可)は、少し高めの最初のハードルさえ越えてしまえばあとはとても親切にしてくれる。

スーパーを求めて島の反対側まで走る。まっすぐに目的地へ向かうため、普段はあまり使わない国道を走る。早い。コクドウ走ったらあっという間にトノショに着いた。グルッと小さな街を周り、気配でスーパーを探す。マックスバリューとかイオンとかジャスコ。エーコープでもいいや。
結局「オリーブタウン」というこの島ならではの買物スポットに大型スーパーは有った。アジとクジラは売っていたけれど、アワビは売っていなかった。でもまあ仕方ない。キャンプの度にアワビを食っていたら破産してしまう。ビールと氷とツマミと肴。最近は食材が余らないよう、控えめに買う術も憶えた。小さな段ボール箱に買った食材を詰めてキャンプ場を目指し、来た道を引き返す。

キャンプ場

バイク乗り的、キャンプの心得その1。キャンプ場は貸切に限る。
人知れず黄昏ルには、人気のない、ひと気のない、ファミリーの来ない、水道とトイレがあるだけのできるだけ低規格のサイトが相応しい。
随分と鼻が利くようになってきたので最近は外れなし。今日もわざわざフェリーに乗ってきただけのことはある。だれもいない快適サイトに恵まれた。


準備完了海ビール

陽がくれる前に手早く設営を終了し、ビールを持ってビーチでのんびりすることにする。波打ち際まで行ってみると海は透明で、沢山の小魚が群れている。瀬戸内の穏やかな海を眺めながら、陽が落ちるのを待つ。ビールを飲む以外に何もすることがないという極めて贅沢で幸せな時間が過ぎる。

晩餐ソーセージとうもろこし

暗くなるのを待って食事の支度を開始する。フェリーの中で頬張ったおにぎりが最後の食事だったので結構な空腹だ。ということでまずはパスタ。もちろん具はレトルトである。最近は茹で時間が短いパスタが売っているのでこれを良く使う。バリンと二つ折りにして長さを短くしてジップロックに入れて、いつも一食分をカバンに突っ込んである。

パスタを茹で始めると、箸を持ってくるのを忘れていることに気が付いた。スーパーでわりばしを貰ってくれば良かったのだが、箸のことなんて忘れていたし、弁当を買ったわけではないので入れてもらえなかったのだ。カバンの中を漁ってみたがスプーンやフォークはもちろん、代用品になりそうなものは何もなかった。幸いにも串つきソーセージを買っていたのでこの串が箸代わりになって事なきを得たが、これが無かったらどうやってアツアツパスタを食べたのだろう。途方に暮れながら、箸になりそうな流木を探しにビーチを歩き回る羽目になったのだろうか。

串付きソーセージを買った自分を褒めながらパスタで腹ごしらえが終わると、アジの刺身とクジラの刺身を肴に長い夜がスタートする!
まずはレトルトを温めるのに使ったお湯にトウモロコシを投入。トウモロコシが食べたかったと云うよりも、ストーブを長時間使いたいが為に茹で時間の長い食材を買ってみたというのが本音。これはちょっとマニアックかもしれない。シュコーーーと明るく灯るガソリンランタンの隣で、ズバババババと重低音を響かせながらトウモロコシを茹で上げるガソリンストーブ。遠くに漁船の灯りと月明かりを見ながら冷えたビールを飲む。嗚呼、楽しいなぁキャンプって。

ゆっくりと時間を掛けて目の前の食材をすべて平らげたらかなり苦しくなってきた。さらに茹であがったトウモロコシを無理やり腹に収め、ビールをすべて飲みきってしまうともう動けない。そして急激に眠気が襲ってきた。チタンカップに氷を入れて「次はハイボールだ」と頑張ってみたが既に限界を超えている。「もう無理。」と呟いて夜を諦めた。手早く食材とゴミ類を箱に詰めて片付けてストーブとランタンをテントの前室に引っ込める。テントの中に入ってフライシートのファスナーを閉じ、服を脱いでシュラフに潜り込むとあっという間に眠りに落ちた。

さらに続く

投稿者 ikeura : 2011年6月 5日 00:13


2 Comments

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上手く言えませんが・・・自分もキャンプをしていた時は同じような感覚だったのかもしれません。
非日常を求めて、相棒と徘徊していました。
気が紛れるので人は少ないほうがよい...ゲリキャンのルーツです。

今年から息子とタンデムでキャンプ復帰予定です。

キャンプ場は自分で作る=マイスタイル
辛くてもここは譲れない。

続きありがとうございます。さらに期待しています。

本当の田舎に行くと「地元の人はどこで食糧調達しているんだろう」「10年、20年後はこの村どうなってしまうんだろう」と毎度考えてしまいます。

コメント

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