九州上陸。志布志港。
鹿児島は久しぶり。北海道の道に似ているから鹿児島の道は大好きだ。夏の北海道は走ったことがないけれど、冬の北海道は何度も走ったことがある。冬の景色に基づく推測でしかないが、鹿児島のR448のだだっ広さは多分北海道のそれに少しは通じるものがあるのではないだろうか。そんな事を思わせる道だ。 なにはともあれこの道を走るのは多分3度目。だから地図も見ずに適当に走る。
「なんとか公園、左」という看板に釣られて路地を左折。そのまま誰もいない道を突き進む。暫く走ると幟の並ぶ公園が出現。観光地然とした雰囲気に嫌気してそのまま素通り。すると今度は「照葉樹の森」という看板が出現。照葉樹ってなんだろうと興味をそそられてそちらへ走る。クネクネした山道をぐんぐん突き進む。
するとY字路に行き着いた。左向きには真新しい看板に照葉樹の森と書いてある。右方向には寂れた看板に見知らぬ地名が書かれている。
どうやら「照葉樹の森」と書かれた方に進むとそこは多分行き止まり。観光施設が蟻地獄のように待ち構えているに違いない。
見知らぬ地名を指し示す方の道は険しそうな雰囲気が強烈にする。少し迷いながらも見知らぬ地名の出ている方へハンドルを切る。枯れ杉と小枝の落ちる道をスラローム。なんだかいつもこんな道を走っているな。
どのくらい走っただろう。登り勾配だった長い山道はいつしか下り坂に変わり、木々の隙間からチラリチラリと海の青が見えてきた。
どんどん下ると突然広い道に出た。すると唐突にヘリポートが出現。ん??何故こんなところにヘリポートがあるのだろう。バイクを止めようと思ったら警備員の怪訝そうな視線が突き刺さる。良く見ると小脇に銃を持っている。なにか只事ではない雰囲気を感じ取り、気弱にそのまま素通りすることにした。
数百メートルも走るとT字路に突き当たった。ちょうど同じタイミングで左からもバイクがやってきた。郵便配達の赤いカブだ。なんとなく顔を見合わせる。こちらが優先道路なので先に出ようとしたらそれを制止するように、そのバイクが先に出た。まるで後ろについて来いと言っている様に道の真ん中を走っている。抜けないわけではないが、なんとなく後ろに付いて走ってみることにした。
アクセルを閉じたまま、2速のクラッチを切ったり繋いだりしながら下り坂の道をカブに従って走る。するとカブは路肩に止まった。自分も自然とその後ろに止まった。カブに従うロードキング。なんだか不思議な下剋上的光景。
すると郵便配達員の視線の先には見たことにない景色があった。これは自衛隊の射撃場だ。手前にそう看板が出ていたから間違いない。
三角翼のラジコンを誰かが飛ばし、それに向かっての機関銃一斉射撃。まるでスターウォーズのような機銃の光。弾の軌跡って本当に見えるんだ。
打ち落としてはいけないルールになっているのか、本当に打ち落とすことができないのか分からないけれど、けたたましい音で飛ぶラジコンは一向に撃墜されない。
小高くなった道の上からそんな光景を眺める。
私が銃撃に興味をそそられている事を確認すると、郵便のバイクは満足げに走り去った。これを見せたかったのか、ありがとう。
真夏の真昼。
汗をだらだらとかきながら、エンジンを切ったバイクに腰掛けてニッポンの防衛の基幹を成す訓練にしばし魅了される。この海の底には何千発、何万発という機関銃の弾が沈んでいるのだろう。
30分ほどすると「打ち方やめー」みたいな合図があって、機関銃から皆が離れた。どうやらしばしの休憩に入るようだ。あーあ、もう終わりか。
銃撃が終わるとそこはただの海の見える山奥に戻った。「さて」とか言いながらメインキーをオンにしてスターターボタンを押す。「ズドン!」と、一発で目覚めるエンジン。
銃撃が終わった静かな大隈半島に、我がロードキングの咆哮が響き渡る。
訓練中にやってきたこのバイクの存在に気が付いていた者は誰も居なかったに違いない。突然の背後からの爆音に、弛緩した自衛官に瞬時に生気が戻り、一斉にこちらを振り返った。なんだ日本人か。こちらの人と成りを確認すると安堵な雰囲気が広がる。
さっきまでの銃撃の大音量に対抗するかのように少し大きめにアクセルを煽り、クラッチをつないでゆるゆると発進。二速に入れて左手を大きく振ると、旗を持った教官みたいな人たちが旗を振ってくれる。凄いモノ見ちゃったよ、ありがとう!バイバイ!
そのまま誰もいない道を突き進むと快適な道が果てしなく続く。
ウヒョーとか叫びながらアクセルを捻り続けていたらT字路がやってきた。なにこのT字路。
どちらに行っていいのか分からないのでバイクを止めて地図を出す。右なら県道経由で先に進めそうだけれどちょっと遠回り。左からでも行けそうだけれど、地図では道が途切れている様に見えなくもない。どうしよう。
地図に視線を落としたまま考え込んでいたら目の前に軽トラが止まっていた。視線を上げると窓を下ろた助手席越しにおっちゃんがこっちを見ていた。視線が合うと「何処行くの?」と聞いてきたので「左へ行ったら佐多岬へ行けますか?」と返す。身振り手振りで左ルート経由で佐多岬へ行く道の説明を始めてくれたが途中で諦めて、佐多岬の手前まで行くから後ろを付いて来いと云う。オッケー、分かったよ、付いていくよ。
こちらがバイクに跨ったのを確認すると軽トラスタート。軽トラのおっちゃんとツーリングがスタートだ。
左の道はけっこう細かった。おっちゃんは法定速度プラス10キロで走る。タイトな道だから軽トラにしたら結構いいペースだ。
しばらく走ると鋭角の右ターン、そして急勾配の上り坂。これは多分ツーリングマップルで見たら透明な道だ。本当の地元の軽トラしか走らない、プレミアムな裏道だ!すげー。
最近は本文に括弧笑いとか使わない様にしているのだが、それを使いたくなるくらい楽しい。
鋭角右ターンからの急勾配(笑。
農協の寄り合い所、みたいな所の前でおっちゃんの軽トラは左に寄って止まった。運転席から右手が出る。もうここからなら分かるだろ?的なサインかと思って軽トラに並びかけ、運転席を覗き込むとどうやらちょっと待て的なサインであることが判明。一生懸命ちょっと待てと合図している。どうしたのかと思ったら、助手席に別のおっちゃんが乗り込んでいた。どうやらここで誰かを拾う約束をしていたらしい。佐多岬あっち。みたいな看板が既に幾つも出ているのでもう道は分かるんだけどなあ。
不思議そうな顔をしながら助手席に乗り込んだおっちゃんに運転席のおっちゃんは、ハーレーの兄ちゃんに道教えてあげてるんだよ。と、ちょっと得意げに説明しているらしい会話が聞こえないけど見える。
そして再出発。相変わらず法廷速度プラス10キロ。
軽トラに従って走る爆音ハーレー。でもちょっと回転数低めなオレのエンジンは少しブスブス言っている。でも目の前を走る軽トラのおっちゃんの、ちょっと得意そうな顔が目に浮かぶから、こっちまで楽しくなる。よし、いいよ、おっちゃんが案内してくれる所までついて行くよ!
マイペースで走るおっちゃんは、軽トラとすれ違いざまにスピードを落として挨拶。チャリンコを追い抜きざまに挨拶。向こうから歩いてくるおばちゃんに挨拶。この辺じゃみんな顔見知りなんだね。そりゃそうか。
おっちゃんがスピードを落とす度、後ろにくっついてスピードを落とすオレ。なんでこのでっかいバイクは軽トラを抜いていかないんだ?と不思議そうな人々。そんな人たちに手を振ると不思議そうな顔のまま反射的に手が左右に動く。バイバイ、おばちゃん。オレは前の軽トラの連れなんだよ。
50キロで走るのも結構楽しいな、と思っていたら軽トラに左ウインカー。気が付くと佐多岬へ続く道の入り口まで来ていた。目の前には破棄された料金所。昔この道は有料道路だったけれど今は無料なのだ。
じゃあ気をつけていけよー。ありがと、おっちゃん!手を振ってアクセルを捻る。スババババ!
このくそ暑いのに佐多岬のあの道は歩きたくはない。岬へはもう何度も行ったから、目指すは手前の船着場。確かあそこで飯が食えた筈だよな。初めてじゃないからちょっと余裕だ。
他に誰も客がいない船着場。
バイクを停めて建物に歩く。ああ、ここは遊覧船の待合所なのか。片隅でひっそりと営業している食堂。まだ平気?と聞くと大丈夫よとおばちゃん。もう昼はすっかり回っている。
オススメなに?と聞くと「海草だけど。まあ好きなの食べればいいよ。」とおばちゃん。面倒くさい客が多いのかな。折角薦めても文句言われちゃう事があるんだろうな。控えめな回答にちょっと深読みしてしまう。
うん、じゃあその海草にするよ。メニューには海草うどん、海草そばとある。うどんとそばとどちらが良いか聞くのも酷な気がしたので海草うどんをオーダー。
他に誰も居ない店。注文から5分で登場、海草うどん。目の前に来た途端、すごい磯の香り。そこの防波堤で取ってきただけでしょ、この海草。すごい新鮮な匂い。でもうちの田舎じゃこれ食わないよ。まあいいけど。
暑いのに熱いうどんで汗だらだら。でっかい扇風機で涼んで出発。ごちそうさま。おばちゃんバイバイ。
つづく
いいね~
今すぐ、鹿児島行きたい。
どうしてくれんねん。