バイクに乗るとき、私はグローブもしないしレザーも着ない。ヘルメットは装飾用だ。
理由は簡単。頸に爆弾をかかえていて、次転んだら車椅子と宣言されているから。
カラダが動かなくなってしまうなら、カラダを傷つかないようにする必要もないし、手を守っても意味がないし、頭なんて割れてしまっても構わない。何を身勝手なことを言っているんだと思うだろうか。でもこの気持ちは、実際に首から下が動かなくなって、その恐怖を味わった人にしか分かりっこない。
その代わり人一倍安全運転をしている。このコーナーの先に何か落ちていても止まれるように。あの角から子供が飛び出してきても平気なように。信号で止まれば、後ろから突っ込んでくるクルマがいないか必ずチェックする。
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ここ最近は健康にはまったく問題がない。
毎週何十キロも走っているし、ジム通いの甲斐あってカラダも結構引き締まってきた。
大きな衝撃はまずいけれど、普通に生活する分には首の怪我は問題ない。
もしかしたら、もうすっかり直っているんじゃないかとすら思ってしまう。
ところが夏の初め、腰を痛めてしまった。ちょっとトレーニングの度が過ぎてしまったようだった。今だから打ち明けると、楽しみにしていたラブピーに行けなかった理由はこれだ。
結局、痛めたのは骨周りではなくて筋肉だったのでストレッチを繰り返すことによって回復してきた。
ストレッチを始めたら腰痛が治っただけではなく、走るのがとても楽になった。すげー、ストレッチ。楽しい、ストレッチ。
腰周りのストレッチを続けていたらいろいろと調子が良くなってきたので、調子になってストレッチの本を買ってみた。で、ページの最初から順番にやってみる。肩、首、腰、足。
そうしたら、左肩が痛くなってしまった。
ああ、ストレッチやりすぎたのかな。しばらく経てば直るだろうな。そう思っていたけれど、なかなか直らなかった。そのうち痛いところが動き始めた。肩が痛い日、腕が痛い日、肘が痛い日。そして痺れが続く。
あ、これは肩が痛いんじゃない。首の神経が圧迫されて痛みが出ているんだ。頸をやってしまったあと一年間悩まされたあの感じだ。これは首のストレッチが原因だ。自己診断だけれど間違いはない。
信頼すべき先生に相談してみると衝撃の言葉。
「首に関しては、健常者用のストレッチをやってはダメです」
ガーン。健常者ではなかったのか、オレ...。
そりゃそうだ。頚椎損傷やったんだった。もうちょっとで車椅子だったのが、奇跡の復活をさせてもらったんだった。今まで痛くなかったカラダに痛みを覚えると、気持ちが引き締まる。まあこの痛みと痺れは半年もすれば収まってくるからいいとして、今回のことはなにか意味があるのかもしれない。
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いろんな事があったから、いま生きていられること、カラダが動くこと、そんな普通の人には普通にしか思えないだろう事が嬉しくて堪らない。
だから、いろんな事に感謝しながら、日々とても楽しく生きている。
「日々とても楽しく生きている」と、言うと、「良く分からないな、そんなの」と、時々言われる。
日々楽しく生きていることが理解できないほど人生ってつらいのか?と不思議になったりするが、そんな時、自分の気持ちを理解してもらうために良くこんな話をする。
「例えばガンで余命半年を宣告されるでしょ?そうするとやりたいこと、やり残したこと、やりたくないこと、やらなきゃいけないことって明確になるじゃない?それでその半年って多分今までと違う生き方になると思うんだ。ちょっと必死になるというか一生懸命になるというか。で、その半年が終わりに近づいてくると「まだ死にたくない」って思うでしょ?で、そのもうすぐ終わりって時に、「やっぱり君はずっと生きててもいいよ」って言われた時の感じが今の僕の人生。」
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そういえばもう一つの事件の方、燃えたあの日から、もうすぐ一年。
夜風が冷たくなってくると、燃えてしまったテントの中で、火傷を負った顔を氷水で冷やしながら、壁の無くなったテントの中で寒さに凍えながら、もう人様の前に出られない顔になってしまったのではないか、化け物みたいな顔になってしまったのではないか、自分の顔のすべての皮膚がユルユルと動く恐怖の中でそう思ったのを思い出す。
そんなわけで安全運転アンド火の用心、ヨロシクベイベー。
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