クリスマス直前の12月23日は二級船舶の実技講習の為に大阪へ行ってきた。
まだ沖縄へ引越す前、「ボートに乗りたい!よし、免許を取ろう!」と後先考えずに衝動的に申し込んでしまったので、わざわざ大阪に戻る羽目になったのだ。
講習が終わったらすぐに帰ってこようと思っていたのだけど(寒いし)、翌日も翌々日もエアチケットが取れずに足止め。クリスマスイブでは誰かを呼び出すのも気が引けて、一人で散髪へ行ったり十三へ焼肉を食べに行ったりした。(イブの夜。一人で、人目も気にせず、予約もなしに飯が食えるのは、十三の焼肉屋のカウンターしかない!と閃いたのだ。案の定、カウンターには一人で来ているおっちゃんがいっぱい。)
空いた時間は部屋に籠もって(外寒いし)WiFiで繋いだノートPCで「カブ」の調査に明け暮れた。
最初は5万円とか8万円とかの中古でいいやと思っていたけれど、よくよく調べていくとカブにも色々あることが分かってきた。
まず排気量は 50,70,90,100,110 とか色々あるし、種類もリトルカブ、プレスカブ、ハンターカブ、スーパーカブ、PRO、カブラなんて名前が出てくる。ミッションも3速と4速、ライトも丸目と角目、そしてキャブレター車とインジェクション車があることが分かった。
そんなに種類があることを知ったところで、たいした思い入れがあるわけでもないので何を選べばよいのかますます分からなくなってしまった。そこで自分が求めているコトを整理してみた。
まずどうしても譲れないのはこの三つ。
・ 丸目であること。(これは単に好みの問題)
・ 普通の形であること。(いつもハーレーで目立っているから、街に溶け込むように走ってみたい)
・ 白ナンバーじゃないこと。(30キロ制限と二段階右折はちょっと厳しい)
そしてできれば欲しいと思ったのはこの二つ。
・ 4速シフト
・ セル付き
するとあっけなく車種が決まった。これらの条件を満たすのは、スーパーカブ110 ただ一種類だけだったのだ。
今度はスーパーカブ110という車種についてを調べてみるとすこぶる評判がいい。誰も彼もが褒めまくりだ。よし、それならと今度は中古市場を調べてみると全く値崩れしていない。10万円でお釣りが来るくらいのモノと考えていたのに調子が狂う。
しかし評判もリセールバリューも良さそうだし、実はすでに製造中止になっているという話を聞いて気が変わってきた。まあ20万出しても15万円で売れさえすれば5万円の出費で済むじゃないか。
タマ数豊富な本土で中古市場やヤフオクを色々調べてみたけれど、沖縄へ持っていくフェリー代を考えると結局新車価格になってしまうことが分かった。それならということで素直に沖縄の市場で探すことにした。
沖縄で調べてみるとやはりタマ数は少ない。ただのカブならいくらもあるが、スーパーカブ110に限定すると定価以外で売られている車両は4台しかなかった。たったの4台。
でもよく見ると4台とも自宅から数キロ圏内のところに店があり、2時間もあれば回れそうだったので全部見に行ってみることにした。
1台目。これが一番安かったのだがSOLDOUTになっていた。行ってみると店は族車専門店だった。そういえば「カラー ブラック」になっていたけれど、スーパーカブ110に黒の設定はない。多分、どっかの兄ちゃんが缶スプレーで塗ってしまったのだろう。
2台目。先ほどの教訓を生かして、いくら近くても在庫確認の電話くらいしてから行こうと電話をするが、何度掛けてもファクスになってしまう。電話番号は絶対に間違っていない。メカ音痴の店主がスイッチを間違えてしまったのだろうか。ああ沖縄っぽいなぁ、ファクスになってたよー、と教えてあげようと考えながら店を訪れるとその店は潰れていた。
3台目。電話をすると「カブ?ああ、ありますよ。」と言われたので「じゃあ、あとで見に行きます」と言って電話を切った。値段は安いが怪しい写真が一枚だけしか載っていないから半信半疑だ。
3台目の店に行く通り道に、新車だが価格が「ASK」になっている4台目を置いてある店があることに気が付いたのでそこに寄ってみることにした。値切って3台目の値段より安くなればそこで決めてしまおうと思ったのだ。地図を頼りに店を訪れるとそこはやたらと立派なショールーム。店舗内に入りしばらくうろうろしてみたけれど誰も出てこなかったし、建物の立派な分がすべて価格に反映されていそうだったので早々に引き上げてきた。
さて、電話をしておいた店に着くと3台目の緑のスーパーカブは狭い店の中央に引っ張り出されて僕が来るのを待っていた。今日来店する筈の客は他に誰もいなかったのだろう。恐る恐る店に足を踏み入れた私と目が合った店主は何も聞かずに無表情のまま「それだよ」と言うようにアゴでカブを指した。
あうんの呼吸を感じながらこちらも無言のまま、まずは距離を確認とオドメーターを覗き込んだらゼロが並んでいた。「あれ?これ新車なの?」 ここで思わず声が出た。値段が安かったので中古だと思い込んでいたけどそれは新車だった。しかも自賠責保険、G防、登録諸費用に消費税、ヘルメットとU字ロックまで付いたコミコミ料金だった。
なんでこんなに安いの?と聞くと、カブは白ばっかり売れてこの色は全然売れないの。ずーっと売れ残っているから仕方ないのよねー。と、ちょっとさびしそうな店主。実際の相場がどうなのか知らないけれどなんとなくこの店で買いたくなった。中古なら程度のチェックをしなければと思っていたけれど新車ではその必要もない。
「じゃあコレにする。コレちょうだい。」と、緑のカブを指差すとおっちゃんは笑顔になった。じゃあ、どうしようかねー、と、そわそわしながら机の中から書類をゴソゴソ出し始めるのを遮るように、隠し持っていた紙袋から住民票と印鑑を出して手渡すと、おっちゃんは更にニコニコ顔になった。
なかなか売れないお荷物カブが年の瀬に売れて嬉しそうだった。
お金どうするー?と訊かれたので、明日の朝に振り込みますと答えると、じゃあ朝 銀行に行かなきゃいけないねー。といいながら白いメモ用紙に振込先を手書きで書いてくれた。普通なら請求書とか計算書とか出てくるわけだけど、この街ではそんな常識は通用しない。
ヘルメットどれにするー?と指差す先には酒屋の配達の人が被っていそうなツバの付いた2700円とシールが張られたヘルメットが白、黒、シルバーと並ぶ。こんなのいらないなーと思いながらも、そういえば自分はこっちにヘルメットを持ってきていないのを思い出して「じゃあ白で」と選んでみた。
じゃあ、あさってねー。と、配達の約束をして店を後にする。
5万円ちょいちょいを予定していたのに20万円の出費だ。今月はかなり出費が嵩んだなぁ。と、ちょっと憂鬱になっていたら携帯にメールが来た。店を出てちょうど10分後。
「沖縄はどうですか?私達の年代では沖縄、と言えば鬼畜米英、本土決戦、沖縄激戦地、ひめゆり部隊自決す!なんていう時代だけど今や国際的観光地ですね。
何でも売っているでしょうけど半袖シャツ二枚とお餅を少し送りました。保存食にもなるしね。
それから水色の封筒に30万円入れておきました。これは元々あなたのお金です。私に掛けておいてくれた保険の払い戻しがとても沢山あったので、必要な分だけ貰って余った分を送ります。今月はあなたも思いがけない出費があったでしょう?」と、母親からのメール。
高校を出てから親からお金を貰うのなんて、たぶん初めて。ボロボロと涙が出る。
また不思議なことが起こった。
いつもそう。
気持ち良くお金を使うと、必ず違うところから戻ってくる。
すべては繋がっているのだ。
お~、泣き笑いですわ~!!ガオー!ガルルルルゥ~!!(笑
カネは天下のまわり物ですね。
いや、親ってありがたいですね。